日本一のチキンビリヤニ
先日たまたまつけたテレビにビリヤニ太郎なる人がでていた。
色黒の青年だったが、なんでもこよなくビリヤニを愛し、日本ビリヤニ協会会長という役職を担っている人物らしい。
ほほう、若いのにこいつはすごい。タコス兄は日本タコス協会会長どころか会員にすらなれていないのだ。それに比べこの青年は自らビリヤニ布教活動を先導しているではないか、もはやぐうの音もでなかった。
その番組の中でビリヤニ太郎氏が日本一美味しいと太鼓判を押していたのが、大阪 心斎橋にあるアリーズキッチンで食べられる"チキンビリヤニ"だったのだ。
店名を聞いてビビッときた。"その名前、昨日見た気がする"。
その通り。記憶を辿ると私は昨日その店の前を自転車で通っていたのだ。これは行かねばと思った。店名を聞いて天命を知ったわけだ。
早速店に行くと、店内は異国の人で溢れかえっていた。パキスタン料理のお店だということから推理して、彼らはおそらくパキスタン人であろう。
席は空いているかと、店主らしき異国のおやじに尋ねると、ヨヤクシタノ!?ナンデヨヤクシテナイ!?とわりと真顔でまくしたてられたので戸惑った。
仕方あるまい、急に食べたくなって急に来たのだ。ナンデと聞かれてもこちらもナンデダロウ?としか返せないのだ。
しかしそれは異国のジョークだったらしく、イイヨ!ココアイテルカラネ!とテーブルに案内された。どうやらこの店主らしきおやじはジョークが好きらしい。
メニューを見ている間もいろんな客に絡みにいっては温度差をまったく無視して話しかけていた。もしフレンドリーという言葉が擬人化されたら、おそらくこのようなおやじになるに違いない。
とにかくテレビでビリヤニ太郎氏が紹介していたチキンビリヤニが食べたかったので、他のメニューをあまり見ることなく注文を済ませ、せっかくなのでラッシーも一緒に頼んだ。
店主らしきおじさんが客に絡みながら店を一周したところで、おまちかねのチキンビリヤニがテーブルに届けられた。
本格的だ。これは本場のつくり方をしているに違いない。日本ではめったにお目にかからない長細い米によくわからない黄色、そして不均一にカレーのような色が散らばっている。なんだか細かいレモンの皮のようなものもある。
ちなみにこの長細い米はバスマティライスというらしい。いいじゃないか、バスマティライス。なんだかすごく異国情緒があって何度でも口に出したくなる。バスマティライス。
ビリヤニ太郎氏が語っていた前情報としてはとにかく香りがすごいという。薔薇のエキスかなんかそのようなものを最後にふりかけるという、魔術師顔負けの仕上げを施しているらしい。
とにかく一口たべてみた。
すごい。なんだこれは。
本場の味がする。もちろん本場で食べたことなんてないがこれは本場の味だとカラダが言っている。スパイスの刺激とバスマティライスに染み込んだ味も強烈なのだが、なにより鼻からぬける香りがものすごい。口の中で何千本という花が開いたような、形容しがたい香り体験である。
きっと某グルメリポーターなら、香りの宝石箱や〜!と言っていただろう。
ふたくち、みくちと食べ進めるごとに広がる香りのお花畑。それにしたがってスパイスの辛さもじんわりとひろがってきた。
辛いな。と思った頃には時すでに遅し。香りに気を取られている間に、舌はすっかりヒーヒー状態になってしまっていた。
辛い、すごい、辛い、うまい、
すごい、うまい、辛い、辛い、辛い辛い辛い…
うまさと辛さの反復横跳びを繰り返しながらも、絶妙のバランスでチキンビリヤニは皿の上から姿を消した。
最後に、オイシカッタ!?とおやじに聞かれたので、オイシカッタ!と笑顔で応えた。
一緒に頼んだラッシーがなければ辛さにギブアップしていたかもしれないことは黙っておいた。